吸入麻酔薬の基本
◆吸入麻酔・静脈麻酔のメリットとデメリット
吸入麻酔 | 静脈麻酔 | |
メリット |
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デメリット |
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◆個体差の存在
薬物学的個体差
患者に投与されてから効果部位(麻酔薬の場合は大脳)に到達するまで
薬力学的個体差
効果部位からの実際の効果の出方
<吸入麻酔薬の個体差>
吸入・排出 ⇄ 肺胞内 ⇄ 血液 ⇄ 効果部位
・吸入麻酔と違って代謝をほとんど受けないので、この差による個体差がない
・肺胞内濃度は呼気ガスでモニター可能であり、血液、効果部位の濃度も分配係数で決まるので個体差は出にくい。
→吸入麻酔薬で薬物学的個体差はかなり少ない
<静脈麻酔薬の個体差>
静脈内投与→血管内→効果部位
↓
クリアランス
定常状態になるにはクリアランスの影響が大きく、ここから薬物学的個体差が出やすい!
※市販のTCIポンプは「設定血中濃度≦実際の血中濃度」となるように設計されており、血中濃度はほとんど合致はしていない。
◆各吸入麻酔薬の血液/ガス分配係数と組織/血液分配係数
麻酔薬 | 血液/ガス | 脳/血液 | 筋肉/血液 | 脂肪/血液 |
デスフルラン | 0.45 | 1.3 | 2.0 | 27 |
セボフルラン | 0.65 | 1.7 | 3.1 | 48 |
イソフルラン | 1.4 | 1.6 | 2.9 | 45 |
ハロタン | 2.5 | 1.9 | 3.4 | 51 |
亜酸化窒素 | 0.47 | 1.1 | 1.2 | 2.3 |
・血液に溶け込みにくい(血液/ガス分配係数が小さい)ほど、導入が早い
◆種々の要因が導入に与える影響
・BMIが高いのは導入に影響はない
・脂肪や筋肉に蓄積したセボフルランやデスフルランが覚醒時に排出されることで覚醒の遅延になるか?
→脂肪や筋肉は血流が比較的少ないので、そこからの排出も緩徐であり、それぞれに蓄積した吸入麻酔薬の血中濃度上昇は非常に小さく、入眠濃度に達しない。ただし、筋肉・脂肪両方から排出される吸入麻酔薬の濃度を合わせると、セボフルランでは一時的に入眠濃度を超える排出がある。
・心拍出量が高い患者では導入は遅くなる
→心拍出量が増加している患者では相対的に脳以外の重要臓器でない部分の血流が増加しているため、相対的に脳血流が少なくなっているため
・脳血流量は導入の速さには影響しない
・RLシャントのある患者では、導入は遅くなる
・LRシャントがある患者の場合、代償的な心拍出量の増加がない患者では導入は早くなるが、代償的な心拍出量の増加がある患者では導入は遅くなる。
・導入時に総流量はTotal flowが1L、2L、5L、10L、Prefillingの場合で比較すると、5Lまでは有意に導入の速さに差が出るが、5Lと10Lの差は小さく、Prefillingと10Lの差はほとんどなくなる
・導入直後に低流量麻酔へ切り替えをすると、一時的に上昇していた効果部位での吸入麻酔濃度が下がる場合があるので注意が必要