エイミーの麻酔科お勉強メモ

日々のお勉強のメモ

耐運動能評価 METSとは?

麻酔科診察時に、運動耐容能の評価の指標として、METS(metabolic equivalents)が用いられます。

1METS
身の回りの世話を自力で出来る。食事、着替え、トイレ使用可能。室内の歩行が可能。平地の歩行(4km/hr程度で1-2ブロック)が可能

4METS
掃除、皿洗いなどの軽作業。2階まで階段を登れる、丘を登る。平地の歩行(6.4km/hr程度)。短距離走。重労働(床掃除、重い家具の移動)
レクリエーション活動(ゴルフ、ボーリング、ダンス、テニスのダブルスなど)

10METS以上
激しいスポーツができる
(水泳、テニスのシングル、サッカー、バスケットボール、スキー)

→周術期成績に影響する。
高リスク手術における重大心合併症の発生率:4METs以上3%   4METs未満12%)

(ACC/AHA2007 Guidelines on Perioperative Cardiovascular Evaluation and Care for Noncardiac Surgery)

呼吸器系各疾患毎の術前評価

◆ 喘息
<ポイント>
長期罹患者では気道炎症+気道傷害とリモデリングが惹起→気流制限が非可逆性になる。
気道過敏性亢進。
気管挿管で気管支痙攣を誘発する危険性がある。

<問診>
発症時期、治療の有無・内容(使用薬剤)、
発作の頻度・強度、last attackなどから重症度の把握と治療の有効性を確認する。

<検査>
・血ガス:寛解期には正常値。重症化すると肺胞低換気のためPaCO2が上昇、気流制限があると換気血流不均等分布のためPaO2が低下する。
・肺機能検査:1秒量、ピークフローで評価

<麻酔前の準備>
・少なくとも4~8週間の禁煙をする。
・平素には喘鳴がない患者で喘鳴が認められる場合は、手術延期を検討し、治療を先行させる。
・喘鳴改善後も、気道過敏性亢進は数週間続くことに注意。また気道感染でも気道の過敏性は亢進し、数週間持続することがある。
 →待機可能なら2週間は延期するべき
アスピリン喘息:NSAIDs使用禁忌のため必ず確認する。

COPD
<ポイント>
全身麻酔時の陽圧換気による圧損傷、高二酸化炭素血症、低酸素血症の危険性がある。
・高二酸化炭素血症では、高濃度酸素投与には注意を要する。

<問診・視診>
喫煙歴、職業歴の問診
肺の過膨張による樽状胸郭、浅く速い呼吸や口すぼめ呼吸、呼吸補助筋の肥厚と活動の増強

<肺機能検査>
①フローボリューム曲線
V50/V25の増大(>3)あるいはV25の低値は末梢気道での気流制限を示す。

②肺気量分画
FEV1.0% ≦70%かつ、%FEV1.0で病期分類する。

③ガス交換障害
DLCOの減少

<病期分類>

Ⅰ期:軽症(Mild) Ⅱ期:中等症(Moderate) Ⅲ期:重症(Severe) Ⅳ期:最重症(Very Severe)
80% ≦ %FEV1 50% ≦ %FEV1 < 80% 30% ≦ %FEV1 < 50% %FEV1 < 30%または、
%FEV1 < 50%かつ慢性呼吸不全


<麻酔前の準備>
術後の呼吸器合併症に呼吸不全、肺炎、気管支痙攣、無気肺、COPDの急性増悪があり、正常者に比べて2.7〜4.7倍危険度が高い。(N Engl J Med 1999; 340: 937-44)
 ↓
・最低でも4~8週間の禁煙
感染症は増悪因子なので注意
・術前からの内科的治療、肺理学療法を行う。
・開腹・開胸手術のように術後横隔膜機能障害をきたすものは、術前からの呼吸訓練がきわめて有効。

間質性肺炎
<ポイント>
IP合併患者は術後呼吸器合併症発生のリスクが高く、呼吸器感染、手術侵襲などを契機に急性増悪する可能性がある。

<問診・検査>
特発性IPかそれ以外のIP(膠原病、感染、薬物性、職業性、免疫)かを判断する。

<麻酔前の準備>
特発性IPは難治性で急性増悪の頻度が高いことから診断がまず大切。

周術期関連の急性増悪因子:疼痛、高濃度酸素投与
→鎮痛、PaO2 80~100mmHg程度に保つように吸入酸素濃度を調整する。

睡眠時無呼吸症候群 SAS
<ポイント>
・中枢型、閉塞型(OSAS:obstructive sleep apnea syndrome)、混合型がある。
診断されていないOSASが多い。
マスク換気困難、気管挿管困難の可能性が高い。
脳心血管茎、耐糖能異常の術前合併症が多い。
術後呼吸器合併症を高率に生じる。
オピオイドの感受性が高い。

・肥満、小顎、口蓋扁桃肥大、顎下部過剰軟部組織(いわゆる二重あご)の患者で生じる
・男性に多い。
・問診:日中傾眠、起床時の倦怠感、睡眠中の窒息感、大きないびきや呼吸停止

<診断:STOP-BANG Questionnaire>
S - Snoring : Do you snore loudly?
T - Tired:Do you feel tired, sleepy during daytime?
O - Observed:Has anyone observed you stop breathing during sleep?
P - Blood Pressure:Are you being treated or had you been treated for hypertension?
B - BMI:Body mass index>35
A - Age:Age over 50 years
N - Neck:Neck circumference greater than 40 cm
G - Gender:Male gender

*STOP-BANG3項目以上→OSASの可能性大

<確定診断>
終夜睡眠ポリグラフ検査:PSG polysomunography
AHI:apnea hypopea index:睡眠1時間あたりの無呼吸低呼吸の数
 軽症 5<AHI≦15
 中等症 15≦AHI<30
 重症 30≦AHI

<麻酔前の準備>
診断されていないOSASの可能性を考える。
気管挿管困難の頻度は非OSAS患者に比較して5~8倍(Anesthesiologgy 2006; 55; 1348-59)
・術前合併症の評価
高率に高血圧、肺高血圧、不整脈、虚血性心疾患、心不全、脳血管障害、耐糖能異常、脂質代謝異常を合併するため充分な評価が必要。(Lancet 2005; 365: 1046-53)

◆ 呼吸器感染症:小児
<ポイント>
・解剖学的に呼吸器感染症に弱い。
上気道感染が存在する場合、気道過敏性が亢進しており、周術期合併症のリスクが増加する。

<麻酔前のリスク評価>
・術前に上気道感染を合併した場合
喉頭痙攣の発生率は約5倍、気管支痙攣の発生率は約10倍
(Anesthesiology 1988; 68: 276-9 / J Clin Anesth 1992; 4; 200-3)

・周術期の呼吸器合併症のリスク増加
上気道症状がある場合で2.05倍、手術前2週間以内に症状があった場合は2.34倍(Lancet 2010; 376 : 773-83)

<手術麻酔アルゴリズム>
・感染性か非感染性(アレルギー性鼻炎など)を診断する。
重度鼻咽頭炎、38℃異常の発熱、インフルエンザ/クループ、湿性咳嗽、細菌性感染は手術延期する。
・軽症はリスク/利益非比の判定を。
・可能であれば上気道感染症状から手術までは2~3週間はあけるべき。(Anesth Analg 2005; 100:59-65 / Lancet 2010; 376: 773-83)

呼吸器系の術前評価

呼吸器系評価の問診
①喫煙歴
Brinkman index:1日の喫煙数×喫煙年数
 0 non smoker
1〜200 light smoker
201〜600 moderate smoker
>600 heavy smoker

②肺疾患の既往
発症、治療の有無、使用薬剤

③現在の状態
息切れ、咳、痰、呼吸困難、喘息発作の有無

④Hugh Johnes分類

視診
①胸郭の形態
ビール樽様、漏斗胸、側弯、手術創

②体型
肥満、痩せ

③指の形色
チアノーゼ、ばち指

④呼吸様式
努力呼吸、陥没呼吸、呼吸数

胸部Xpの評価
・肺野、CPA
・CTR
・気管支の走行
・血管
・縦隔
・脊椎(側弯の有無)
・肋骨
・横隔膜

・肺過膨張、肺血管陰影の減少→COPDに特徴的
・胸水や肺線維症、骨格異常(側弯症、肋骨骨折)→拘束性障害
・うっ血性心不全、肺硬化、無気肺、肺葉虚脱、気胸などの気腔性疾患→V/Qミスマッチ、低酸素血症
・縦隔圧迫や腫瘤による気管狭窄や偏位の有無

→異常があれば胸部CTも考慮する

動脈血ガス分析
PaO2
安静時PaO2 55mmHg未満は重症低酸素血症。術後肺合併症のリスクが高い。

PaCO2
PaCO2 45mmHg以上は高二酸化炭素血症である。
慢性的な二酸化炭素貯留のある患者は、肺疾患の末期であることがしばしばであり、予備能力がないか、あるいは非常に乏しいため術後肺合併症を起こすリスクが高い。

肺機能検査
・肺の機能的予備力を計測する。
・肺切除予定患者の管理についての決定に有用。分肺機能検査により、肺切除後の残肺機能を評価する。
・スパイロメトリーで肺気量分画、努力性呼出曲線、フローボリューム曲線の3項目を測定する。

精密肺機能検査
①機能的残気量FRC
閉塞性障害の評価に使用する。

②クロージングボリュームCV
COPDなど末梢気道閉塞病変の発見に有用。

③肺拡散能
一酸化炭素肺拡散能DLCO

肺機能検査の評価
・最も有用な検査はVCとFEV1である。
・%肺機能(%VC、%FEV1)は年齢、身長から算出するため高齢者、肥満者では予測値は低く算出される。実測値をその%で表現するため誤って評価しやすい。
→VC、FEV1の絶対値の方が正しいことがある

一般手術では
・VC1.5L以下または%VC50%以下では術後肺合併症の発生率が高い。
・FEV1%
 50%以上 肺合併症のリスクはわずか
 25〜50% 肺合併症のリスクは高い
 25%以下  重症疾患を有する
・FEV1
 1.5L以上 正常
 1.5〜1.0L 注意が必要
 1.0〜0.7L 術後呼吸不全の発生は必発
 0.7L以下 手術そのものは可能だが危険大

肺手術では
・片側肺全摘術
術前1秒量2L以下、1秒率50%以下、予測術後1秒量 0.85L以下
PaCO2>60mmHg、PaO2<45mmHg
→周術期合併症のリスク大

・肺葉切除術
術前1秒量 1.0〜1.2L以上必要
PaCO2 50mmHg以下、PaO2 70mmHg以上必要

・区域切除術
術前1秒量 0.6-0.9L以上必要
PaCO2 55mmHg以下、PaO2 60mmHg以上必要