エイミーの麻酔科お勉強メモ

日々のお勉強のメモ

呼吸器系各疾患毎の術前評価

◆ 喘息
<ポイント>
長期罹患者では気道炎症+気道傷害とリモデリングが惹起→気流制限が非可逆性になる。
気道過敏性亢進。
気管挿管で気管支痙攣を誘発する危険性がある。

<問診>
発症時期、治療の有無・内容(使用薬剤)、
発作の頻度・強度、last attackなどから重症度の把握と治療の有効性を確認する。

<検査>
・血ガス:寛解期には正常値。重症化すると肺胞低換気のためPaCO2が上昇、気流制限があると換気血流不均等分布のためPaO2が低下する。
・肺機能検査:1秒量、ピークフローで評価

<麻酔前の準備>
・少なくとも4~8週間の禁煙をする。
・平素には喘鳴がない患者で喘鳴が認められる場合は、手術延期を検討し、治療を先行させる。
・喘鳴改善後も、気道過敏性亢進は数週間続くことに注意。また気道感染でも気道の過敏性は亢進し、数週間持続することがある。
 →待機可能なら2週間は延期するべき
アスピリン喘息:NSAIDs使用禁忌のため必ず確認する。

COPD
<ポイント>
全身麻酔時の陽圧換気による圧損傷、高二酸化炭素血症、低酸素血症の危険性がある。
・高二酸化炭素血症では、高濃度酸素投与には注意を要する。

<問診・視診>
喫煙歴、職業歴の問診
肺の過膨張による樽状胸郭、浅く速い呼吸や口すぼめ呼吸、呼吸補助筋の肥厚と活動の増強

<肺機能検査>
①フローボリューム曲線
V50/V25の増大(>3)あるいはV25の低値は末梢気道での気流制限を示す。

②肺気量分画
FEV1.0% ≦70%かつ、%FEV1.0で病期分類する。

③ガス交換障害
DLCOの減少

<病期分類>

Ⅰ期:軽症(Mild) Ⅱ期:中等症(Moderate) Ⅲ期:重症(Severe) Ⅳ期:最重症(Very Severe)
80% ≦ %FEV1 50% ≦ %FEV1 < 80% 30% ≦ %FEV1 < 50% %FEV1 < 30%または、
%FEV1 < 50%かつ慢性呼吸不全


<麻酔前の準備>
術後の呼吸器合併症に呼吸不全、肺炎、気管支痙攣、無気肺、COPDの急性増悪があり、正常者に比べて2.7〜4.7倍危険度が高い。(N Engl J Med 1999; 340: 937-44)
 ↓
・最低でも4~8週間の禁煙
感染症は増悪因子なので注意
・術前からの内科的治療、肺理学療法を行う。
・開腹・開胸手術のように術後横隔膜機能障害をきたすものは、術前からの呼吸訓練がきわめて有効。

間質性肺炎
<ポイント>
IP合併患者は術後呼吸器合併症発生のリスクが高く、呼吸器感染、手術侵襲などを契機に急性増悪する可能性がある。

<問診・検査>
特発性IPかそれ以外のIP(膠原病、感染、薬物性、職業性、免疫)かを判断する。

<麻酔前の準備>
特発性IPは難治性で急性増悪の頻度が高いことから診断がまず大切。

周術期関連の急性増悪因子:疼痛、高濃度酸素投与
→鎮痛、PaO2 80~100mmHg程度に保つように吸入酸素濃度を調整する。

睡眠時無呼吸症候群 SAS
<ポイント>
・中枢型、閉塞型(OSAS:obstructive sleep apnea syndrome)、混合型がある。
診断されていないOSASが多い。
マスク換気困難、気管挿管困難の可能性が高い。
脳心血管茎、耐糖能異常の術前合併症が多い。
術後呼吸器合併症を高率に生じる。
オピオイドの感受性が高い。

・肥満、小顎、口蓋扁桃肥大、顎下部過剰軟部組織(いわゆる二重あご)の患者で生じる
・男性に多い。
・問診:日中傾眠、起床時の倦怠感、睡眠中の窒息感、大きないびきや呼吸停止

<診断:STOP-BANG Questionnaire>
S - Snoring : Do you snore loudly?
T - Tired:Do you feel tired, sleepy during daytime?
O - Observed:Has anyone observed you stop breathing during sleep?
P - Blood Pressure:Are you being treated or had you been treated for hypertension?
B - BMI:Body mass index>35
A - Age:Age over 50 years
N - Neck:Neck circumference greater than 40 cm
G - Gender:Male gender

*STOP-BANG3項目以上→OSASの可能性大

<確定診断>
終夜睡眠ポリグラフ検査:PSG polysomunography
AHI:apnea hypopea index:睡眠1時間あたりの無呼吸低呼吸の数
 軽症 5<AHI≦15
 中等症 15≦AHI<30
 重症 30≦AHI

<麻酔前の準備>
診断されていないOSASの可能性を考える。
気管挿管困難の頻度は非OSAS患者に比較して5~8倍(Anesthesiologgy 2006; 55; 1348-59)
・術前合併症の評価
高率に高血圧、肺高血圧、不整脈、虚血性心疾患、心不全、脳血管障害、耐糖能異常、脂質代謝異常を合併するため充分な評価が必要。(Lancet 2005; 365: 1046-53)

◆ 呼吸器感染症:小児
<ポイント>
・解剖学的に呼吸器感染症に弱い。
上気道感染が存在する場合、気道過敏性が亢進しており、周術期合併症のリスクが増加する。

<麻酔前のリスク評価>
・術前に上気道感染を合併した場合
喉頭痙攣の発生率は約5倍、気管支痙攣の発生率は約10倍
(Anesthesiology 1988; 68: 276-9 / J Clin Anesth 1992; 4; 200-3)

・周術期の呼吸器合併症のリスク増加
上気道症状がある場合で2.05倍、手術前2週間以内に症状があった場合は2.34倍(Lancet 2010; 376 : 773-83)

<手術麻酔アルゴリズム>
・感染性か非感染性(アレルギー性鼻炎など)を診断する。
重度鼻咽頭炎、38℃異常の発熱、インフルエンザ/クループ、湿性咳嗽、細菌性感染は手術延期する。
・軽症はリスク/利益非比の判定を。
・可能であれば上気道感染症状から手術までは2~3週間はあけるべき。(Anesth Analg 2005; 100:59-65 / Lancet 2010; 376: 773-83)